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丸の内とローカルの間に、ゲートを開く
「Planetary Health Night at Marunouchi」開催レポート

Planetary Health Night at Marunouchi開催レポート

2026年7月29日、新丸の内ビルディングのEGGにて、「Planetary Health Night at Marunouchi――Regenerativeな都市とローカルの未来」を開催しました。

主催は、天籟株式会社も参画する三菱地所Regenerative Community Tokyo(RCT)。
企画を天籟株式会社が担当しました。

会場に集まった参加者と、イベントタイトルが映るスクリーン

会場には、金融、行政、都市開発、医療、食、地域づくり、自然再生など、異なる領域の第一線で活動しながら、社会のシステミックチェンジを模索する方々が集まりました。

この夜、私たちが投げかけたのは、次の問いです。

都市とローカルは、これからどのような関係を結び直せるのか。

GDPでは十分に評価されてこなかった自然、健康、文化、関係性を、次の経済と社会の基盤にできるのか。

そして、人間の活動そのものが、人、社会、自然環境を同時に再生する仕組みをつくれるのか。

政策、金融、都市、食、医療、地域実装。それぞれの立場から、この問いを考える一夜となりました。

新著『土に触れる人はなぜ健康になるのか』に至る実践

新著について語る桐村里紗

第1部では、2026年7月15日に発売した新著『土に触れる人はなぜ健康になるのか』に至るまでの、5年間の実践についてお話ししました。

前著『腸と森の「土」を育てる』を刊行した後、私は東京から鳥取県江府町へ拠点を移し、住民票も移して、地域の一員として暮らしてきました。

医師として診察室の中から人の健康を考えるだけでは、解決できないことがあまりにも多いと感じたからです。

食事や運動を指導しても、健康的な食を選びにくい都市環境や、慢性的なストレスを生む働き方、自然との接点を失った暮らしが変わらなければ、人は再び不調になります。

同時に、都市で消費される食料、衣服、エネルギー、建築資材の生産過程では、環境負荷や地域の疲弊が、都市から見えない場所へ押し出されています。

一方、ローカルも牧歌的な理想郷ではありません。

農家の高齢化、耕作放棄地、管理できない森林や水路、空き家、交通・医療・買い物の空白、地域文化の継承困難など、生命を支えてきた基盤が急速に弱っています。

都市は、物質、情報、資金、人材を取り込み続けながら、外へ十分に流せなくなった「うっ滞」の状態にあります。

ローカルは、水、食料、自然資源、人材を都市へ供給し続けながら、その見返りが十分に戻ってこない「虚血」の状態にあります。

この都市とローカルの循環不全を回復させることは、双方の治療になります。

私たちは、nichtöneを、そのための社会基盤にしていきたいと考えています。

「市場の見えざる手」と、語られてこなかった足

風刺画「Mr. Market’s Invisible Hand / His Unmentionable Foot」

第2部の出発点となったのは、「Mr. Market’s Invisible Hand / His Unmentionable Foot」という一枚の風刺画でした。

市場経済では、個人が利益を追求することで、「見えざる手」が社会全体を豊かにすると語られてきました。

しかし、その華やかな舞台の裏側では、「語られない足」が、廃棄物、汚染、自然資本の毀損、地域社会の疲弊、将来世代への負担を生み出しています。

経済の表側に現れる利益だけを見て、裏側に蓄積する外部不経済を見ないままでは、社会も経済も持続できません。

巨大機関投資家の立場から語る宮本泰俊氏

日本生命保険相互会社 財務企画部 責任投融資推進室長の宮本泰俊さんからは、巨大機関投資家の立場からお話しいただきました。

日本生命が預かり、運用する資産は約85兆円にのぼります。

世界中に分散投資をしていても、経済や地球環境という「舞台全体」が崩れれば、個別銘柄を選別するだけではリスクを回避できません。

金融がこれまで主に追求してきた個別企業の超過収益、いわゆる「アルファ」だけでなく、市場、社会、地球全体の健全性である「ベータ」を回復する必要がある。

自然資本や社会資本を守ることは、慈善活動ではなく、長期投資家にとっての根本的な責務でもあるという指摘です。

宮本さんからは、プラネタリーバウンダリーなどの科学的知見を基盤に、気候変動、生態系、資源循環を一つのシステムとして捉え、自然が再生する方向へ資金を向ける「ネイチャーファイナンス」の取り組みも紹介されました。

印象的だったのは、日本生命が目指すのは「People+Planet」ではなく、「People×Planet」であるという言葉です。

人の健康と地球の健康は足し算ではなく掛け算であり、どちらかがゼロになれば、全体もゼロになる。

そして、両者を結ぶ鍵が「地域」にあるのではないかという提起でした。

江府町での視察を踏まえ、社会構造を変えるためには、一人ひとりが体験と身体知を持つことが重要ではないかというお話もありました。

二地域居住を、地域再生の社会基盤へ

人口減少時代の国土政策について語る天野正治氏

国土交通省 大臣官房審議官の天野正治さんからは、人口減少時代の国土政策と二地域居住についてお話しいただきました。

日本の人口が減少するなか、すべての自治体が定住人口の獲得を競い続けるモデルには限界があります。

人を一つの地域に固定するのではなく、都市とローカルを行き来し、双方に関わる仕組みへ移行する必要があります。

天野さんからは、二地域居住を支える制度、中間支援法人、関係人口を可視化する「ふるさと住民登録制度」、地域での草刈りや農作業、祭りなどへの貢献を記録する仕組み、交通や住居の負担を軽減する可能性など、具体的な政策が紹介されました。

特に重要なのは、地域の公共的な機能を行政だけに背負わせないことです。

人口と税収が減少する一方で、道路、橋、水道、交通、医療、買い物など、維持しなければならない仕事は増えています。

行政、民間、地域住民、都市から関わる人材をつなぎ、地域の暮らし全体を支える「民間の地域主体」が必要になる。

その担い手を育成し、社会的インパクトを可視化し、補助金終了後も自走できる資金循環をつくることが、次の地方創生の核心になるというお話でした。

「民間役場」と、お金で買えないマーケット

「nichtöne」の構想を語る桐村一平

天籟株式会社の桐村一平からは、地球再生型経済プラットフォーム「nichtöne」の構想をお話ししました。

現在の市場には、かつて当たり前に無料で得られていたものを購入する「じゃないマーケット」が広がっています。

水を買い、運動を買い、出会いを買い、何もしない時間やデジタルデトックスを買う。

クラウドファンディングでは、誰かを応援する経験そのものにお金を払います。これは、ある意味では「心」を買う市場だとも言えます。

同じように、田植え、草刈り、水路整備、森林の手入れなど、かつて地域の負担と見られてきた活動が、都市生活者にとっては、身体を取り戻し、自然とつながり、人や地域に貢献する希少な経験になります。

これは「徳」を得る市場とも表現できます。

地域の人から見れば、「お金を払って草を刈る」という行為は理解されにくいかもしれません。

しかし、実際に都市から参加した人々は、雨の中の田植えさえ心から楽しみ、心身を解放し、再び地域へ戻ってきます。

ここには、新しい市場が存在しています。

ただし、nichtöneが目指すのは、あらゆる価値を貨幣で売買する市場ではありません。

「お金持ちから、お徳持ちへ」。

人が自然再生に関わり、貢献し、徳を積む。

そして、その記録によって、通常のお金では得られない経験や関係性にアクセスできる。

金融資本という一つの軸に加え、「お徳持ち」という直交する新たな軸を社会に加えていく構想です。

丸の内とローカルを結ぶ都市側のゲートとして、私たちは「Rhizome Gate」を構想しています。

その先に、nichtöneという参加と循環のインフラをつくろうとしています。

自然資本を、価格だけに閉じ込めない

大山の湧き水と、雪の中で湧き水に手を合わせる桐村里紗

自然資本を経済の中で評価することは重要です。

ただし、自然の価値をすべて金額に換算すればよいわけではありません。

大山の山肌から湧く水を飲んだとき、桐村一平は、言葉を失い、自然に首を垂れて手を合わせました。
「これまで飲んだ中で、いちばんおいしい液体だ」と感じ、同時に「この水の価値は、本当に100円なのか?」という疑問が湧いてきました。

ペットボトルに詰めれば、100円ほどで売られる水。

しかし、その一滴が生まれるまでには、地球の地殻変動によって生まれた岩盤層、森、土壌、微生物、動植物、雲となる海からの水蒸気、などの多様な働きが関わっています。

それらすべての働きを、100円という価格の中に収めることはできません。

私たちは、これを「生態系サービス」よりも、「Grace(恩恵)」と呼びたいと考えています。

水や食料だけでなく、健康、幸福、学び、文化、関係性、生きる力、防災、気候調整、生物多様性、創造性、新しい仕事や産業まで、再生された自然資本から返ってくる恩恵は多元的です。

経済価値化によって生じた問題を、再び一つの経済価値だけで解決しようとすれば、別の外部不経済を生む可能性があります。

重要なのは、個別の価値を極大化することではなく、全体を一つのシステムとして捉え、そのバランスを回復することです。

ローカルだけでも、都市だけでもつくれない未来

会場全体とパネルディスカッションの様子

会場からも、重要な言葉が寄せられました。

会場から発言する近藤宏・鳥取県日野町長

鳥取県日野町の近藤宏町長からは、都市の中でローカルのことが語られることへの違和感と同時に、地方側にも変わる努力が必要であることが語られました。

人口約2500人規模の町だけで、すべての課題を解決することは困難です。

都市の新しい知識や人脈を地域へ取り入れ、互いに学び合う関係が必要になります。

会場から発言する岡部真久氏(日建設計 Human & Earth Design Lab)

日建設計 Human & Earth Design Labの岡部真久さんからは、都市を諦めず、土や自然に近い暮らしを、新しい都市価値として設計していくという意思が示されました。

新著『土に触れる人はなぜ健康になるのか』の扉絵には、岡部さんチームと共に描いたプラネタリーヘルス未来都市像がカラーで掲載されています。

L’Effervescenceを運営する石田聡氏

L’Effervescenceを運営する石田聡さんからは、食の世界も、人の欲望を刺激し、希少な食材や過剰な消費を競うあり方から、人と地球を健康にする食へと変わらなければならないという言葉がありました。

会場に配布したL’Effervescenceのインパクトレポート2025は、「プラネタリーヘルス」をテーマに編纂されており、石田オーナーと桐村里紗の特別対談も掲載されています。

L’Effervescence Impact Report 2025

政策、金融、都市設計、食、医療、地域づくり。

異なる分野から集まった人々が、それぞれの専門性を持ち寄りながら、社会を一つの生命システムとして捉え直し始めています。

地域のおじいちゃん、おばあちゃんから、行政、企業、金融機関、研究者、医師、建築家、料理人まで。

異なる言語を話す人々の間を翻訳し、関係を結び、動かしていく。

その有機的な網目こそが、これからの社会変革に必要だと考えています。

丸の内とローカルのゲートが開いた夜

法螺をたてる大峯行者法螺師・山伏の宮下覚詮氏

イベントの終盤、大峯行者法螺師の山伏・宮下覚詮さんが、法螺をたててくださいました。

山伏にとって、法螺貝の一息は、山、風、木、雨、森、岩など、さまざまな存在の奏でる音と響き合うものです。

その音が丸の内に響いた瞬間、参加者の身体もまた、その響きと共振しました。

都市とローカルの新しい循環を始める「ゲート開き」が成った瞬間でした。

都市とローカルのどちらかが、もう一方を救うのではありません。

都市の人材、資金、技術、需要、知識が、ローカルの自然と地域の再生に還流する。

ローカルからは、食、水、健康、幸福、文化、関係性、生物多様性、学び、創造性、レジリエンスといった、多元的なGraceが返ってくる。

その循環によって、都市とローカルの双方が再生していく。

7月29日は、その構想を語った日であると同時に、実装へ向けて、多くの仲間と歩み始めた日になりました。

「変態、万歳」三唱で締めくくる参加者たち

最後は、プラネタリーヘルスのイベント恒例の「変態、万歳」三唱で締めくくりました。

ここから、丸の内と全国の流域を結び、新しい経済と社会の基盤を具体的につくっていきます。

ぜひ、ゲートをくぐり、共に動き、次の社会基盤をつくっていきましょう!

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